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  2. 盆踊り創作 6つの視点

創作部会の誰もが初めての盆踊り創作体験。
メンバーも1年間さまざまに悩み、議論を繰り返しました。そうした中から、「こうやって創作していこう」という方針、スタンスのようなものがいくつか見えてきたように思います。

以下に、本サイトの目から見た”創作のポイント”を6つに整理してご紹介します。

視点1 「盆踊りの原点」へのリスペクト

踊り念仏の祖一遍上人ゆかりの地・藤沢。

国宝「一遍聖絵」における片瀬の浜の踊り念仏のシーンはあまりにも有名です。遊行寺はまた、時宗の総本山として長く “踊躍念仏 “(ゆやくねんぶつ:時宗寺院で継承された踊り念仏)を伝承してきました。藤沢は、盆踊りの源流といわれる “踊り念仏 “と、もともと非常に縁の深い土地柄なのです。

ただ、その後近世・近代を通じてこの踊り念仏が藤沢の民衆のあいだに普及・展開し、盆踊りや民俗芸能として成長するといった展開は、残念ながら見られませんでした。

片瀬の浜の地蔵堂跡

踊り創作部会では、改めてこうした中世藤沢以来の踊り念仏との縁に目を向け、新しい盆踊りの創作を通じて「盆踊りの原点」を考えることに挑戦しました。いわば、盆踊りの原点へのリスペクトです。

創作踊りの一つ「和讃念仏踊り」では、一遍上人の踊り念仏へのオマージュとして一遍和讃が使われています。

視点2 地域の”伝承資源”への注目

当初、湘南盆踊り研究会を含む踊り創作部会のメンバーは、藤沢の盆踊りの歴史についてはほとんどなにも知らないという状況でした。しかし、創作部会における勉強を通じていろいろなことが見えてきました。
かつて戦前まで藤沢にも女の子たちによる盆踊り「こなしっくら」が盛んに見られ、ユニークな歌詞も数多く記録されていること。その流れを汲む「ささら踊り」などの優れた伝承系盆踊りが、いくつか残されていること。プレイベントでも喝采を浴びたように、多くの現代系盆踊りとそのグループが健在であること。

藤沢にも、盆踊りに関する人々の記憶や思いなどのさまざまな “伝承資源 “が豊かにあることが、すこしづつわかってきたのです。

藤沢伝統のささら踊り

この貴重な伝承資源= “地域の宝 “を可能な限り活かしたい。創作踊りといっても、ただ新しいだけで根っこのないものにはしたくない。そうした議論から、踊り創作部会の基本スタンスの一つは「藤沢における伝承・記憶との接点をつくる」となりました。
*じっさい、創作踊りの中では「こなしっくら」の歌詞や「遠藤・葛原のささら踊り」の踊り歌など、歌い継がれ、記憶や記録に残されてきた歌詞がふんだんに採り入れられています。
さらに、全国の盆踊りの比較研究から、古い共通の動きである “ナンバ “のような動作に着目するなど、「伝承」への意識的なアプローチをしています。

視点3 市民とプロの合作

「市民の盆踊りをつくる」。これが踊り創作部会のミッションです。

しかし、いかに踊り好きが集まったとはいえ、実際の盆踊りの振付けや音頭の制作については多くのメンバーはほとんどが素人。やはり、ある程度プロの力を借りて形を整える必要があると思われました。
といって、初めからプロにまる投げしてしまったのでは市民創作部会の意味がありません。

このため、創作部会ではまず創作踊りのコンセプトの検討に十分に時間をかけて徹底的に議論をしました。そして、その結果をプロの踊り師匠や音楽家の方に伝え、意見交換しながら創作していくという方法をとりました。

踊りの師匠を招いての創作風景

*本番近くのかなり限られた時間ではありましたが、プロの協力者の皆さんとの密度の濃いやりとりの中で、ひとつひとつ踊りと歌が出来上がっていく様子は感動的であり、私たちにとっても貴重な経験となりました。

視点4 「参加型」と「鑑賞型」

ふつうイメージされる盆踊りとは、「誰もが参加して楽しめる」というものでしょう。

全国の伝承系盆踊りを見渡すと、たしかにこうした「参加型」の盆踊りが多いのですが、一方でもっぱら見て楽しむいわば「鑑賞型」ともいうべき盆踊りもあるようです(もちろん、あくまで外部の人間から見た話ではありますが)。
今回の創作部会は「市民のための盆踊り」ですから、もちろん主眼は「参加型」の踊りの創作にあります。しかし、創作踊りを披露するからには、それなりにきちんとした水準の踊りを市民の皆さんに示す必要があります。

他方、会場設営では実行委員会における検討の結果、中央に舞台を設置する方向で会場の設計方針が決まったこともあって、舞台上での踊りということが創作の必須条件になったという事情もありました。
こうしたことから、今回の創作踊りではあくまで誰でも踊れる平易な盆踊りという基本線のもとに、ある程度舞台上での踊りということを意識した創作活動を行うこととなりました。
*それぞれの創作踊りの中にも、参加性の高いものと鑑賞性の高いものがあります。
「遊行ばやし」などは、もっぱら市民が参加して「踊って楽しむ」踊りをねらったもの。一方「和讃念仏踊り」は、盆踊りの原点の精神をこまやかに表現したもので、鑑賞的な性格の強い踊りになっています。

演出にもこだわった和讃念仏踊り

視点5 市民に開かれた踊り

本来民衆の間から自然発生的に生まれてきた民俗芸能である盆踊りをいかに「創作」すればいいのか。創作部会で当初から議論になった問題です。
もちろん、厳密な意味での民俗芸能を “創作 “することはできません。ただ、一部の限られた人だけが特権的に創作するというスタンスではなく、たくさんの市民の手がかかわり、長い時間をかけてもまれて育っていくような踊りにしたい、というのは当初からのメンバー全員の意見でもありました。

こうしたことから、創作部会ではこの創作踊りを「完成版」「決定版」としてアピールすることはあえてしませんでした。むしろこれを藤沢における盆踊り文化再生の第一歩と位置づけ、「遊行の盆」とともに将来にわたって市民の手で改良されていく “開かれた踊り “になることを期待しています。

視点6 未来へつなぐ踊り

今回、きびしい創作スケジュールと条件の中ではありましたが、子どもたちのための盆踊り3曲を創作(発表はうち2曲)することができました。これは、望外の喜びでした。
盆踊りや民俗芸能を将来に伝えていくためには、どうしても若い世代の参加が必要です。
今回の踊り創作では、藤沢の伝承系盆踊りに取材した「片瀬悪口歌」と、寺山修司の翻訳にもとづく2曲の実験的な子ども盆踊りを創作することができました。

06年7月の本番は子どもたちの踊りが喝采を浴びました。しかし、それ以上にうれしかったのは、その後子ども達が踊りに興味をもち、文化祭や市民ホールでの舞台などに自発的・積極的に参加するようになってくれたことです。

子ども達の活躍は
大きな感動をよんだ

今後、他の学校の皆さんも含めて、ぜひ創作踊りに参加してもらいたいと思います。そして、古くて新しい藤沢の盆踊りの文化を、ながく次の世代に受け継いでいってほしいと思います。

今回の子ども踊りの創作と発表では藤沢市の「三者連携」の枠組みを活用し、長後小学校、および大清水中学校の生徒・先生の皆さんに多大なご協力を得ることができました。
あらためて心より感謝申し上げます。

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